イエス・キリストの黙示。この黙示は、すぐにも起こるはずのことを、神がその僕たちに示すためキリストに与え、それをキリストが天使を送って僕ヨハネに知らせたものである。ヨハネは、神の言葉とイエス・キリストの証し、すなわち、自分が見たすべてを証しした。この預言の言葉を朗読する者と、これを聞いて中に記されたことを守る者たちは、幸いだ。時が迫っているからである。(ヨハネの黙示1,1~3)

 2024/11/18


170. 最適化

前回、『アシジの聖フランシスコの小品集』(庄司篤訳、1988年、聖母の騎士社)の第一章「訓戒の言葉」の最初のテーマ「主の御体」で考察したように、聖フランシスコは、ヨハネ福音書から御父の愛とご聖体についての特別な理解を得ていた。一方、同じ「訓戒の言葉」の第2のテーマ、「我意の悪」では、創世記の「善悪の知識の木」へとその関心が向いている。それは、フランシスコが、ヨハネの黙示録の影響を強く受けていたことを物語っている。 

それまでの黙示文学に類を見ない特異な構造を持ち、その冒頭から「イエス・キリストの黙示」(黙示録1:1)とはっきり宣言しているヨハネの黙示録は、啓示の書、預言の書でありながらも(下記図参照)、信者の日常の訓練の書でもある。その訓練の方法は、黙示録1:3に示されたように、信者が、この預言の言葉を朗読し、自分の声を聞いて、中に記されたことを記憶に保持していくことを繰り返すことによって、信者の内に、いわばコンピュータプログラムのループ構造を作ることだ(本ブログ№151参照)。この構造は、派遣の祝福によってミサ典礼が終わった後から次のミサまでの信者の日常のルーティンを支えるのである。 

訓練の書としてのヨハネの黙示録の第一の目的は、この日常のルーティンにいる信者が、まず黙示録に描かれた「人間の情報」を感覚的に捉えて、聖霊の働きと区別する習慣を身に着け、それを記憶に保持することである。そこで黙示録には、竜、蛇、悪魔、サタン、全人類を惑わす者といった「人間の情報」を表す言葉が、繰り返し出てくる。信者は、黙示録を朗読して聞くことを反復するうちに、いつしかこれらの言葉のイメージが退き、「人間の情報」を直接感じられるようになっていく。この感覚は、ミサ典礼における日常のルーティンを生きながらも、この世で「人間の情報」の只中にいる信者が持つ願いを、強力にバックアップする。それは、出会うすべての場面で、聖霊が働く「神の現実」に自らを最適化させ、聖霊と協働したいという切なる願いである。黙示録は、そのためのシミュレーションになっているのだ。 

以上のような理解のもと、黙示録の「年を経た蛇」(黙12:9,20:2)という言葉をヒントに創世記3章を振り返る時、そこに、すでに同種の生き物の間にそれ相応に情報が発現していたこと、その中で最も賢いのは人間の間に発現した情報であったことが見えるようになる(創3:1,3:14参照)。他を凌駕する「人間の情報」が高度に発達したのは、神がご自分に似せて人を創造するために、人に意志を授けたからである(2:7参照)。全聖書は、御父である神が、ご自身に似せて創造した人の「自分の意志」(注)の自由を保証しているということを、常に訴えている。この観点から創世記3章を読むとき、そこに我が子たちの過ちに対処する御父の姿を見出す。それと同時に、その御父の姿と、御父の御心を成し遂げるイエス・キリストの姿が重なって見えるようになる。

(注)『アシジの聖フランシスコの小品集』p31「我意の悪」参照 

それは、信者が、「こうしてアダムを追放し、命の木に至る道を守るために、エデンの園の東にケルビムと、きらめく剣の炎を置かれた」(創3:24)という御父の姿が、「わたしは道であり、真理であり、命である。わたしを通らなければ、だれも父のもとに行くことができない」(ヨハ14:6)と言ったイエス・キリストの姿と一つであったと実感する時である。そして、この善い知らせを世にもたらすために、人々の内に今も残る「善悪の知識の木」から取って食べたという記憶に取り組もうと、「善悪の知識の木」に関心を向けるのである。 

フランシスコの時代には、「情報」という特別な概念がなかった。『アシジの聖フランシスコの小品集』には、その時代にあって、なんとかして自分が授かった啓示によって、「人間の情報」に対峙しようとするフランシスコの姿が見える。その姿は、すでに彼自身が、聖霊の働きと「人間の情報」を区別する習慣を身に着けていたことを証ししている。実際に「我意の悪」のテーマの中でも、また、他の箇所でも、彼が引用した「悪魔」や「サタン」を、「人間の情報」と置き換えても、その文脈が成り立つことからも、それを伺い知ることができる。その一方で彼は、さまざまな問題について、当時の教会の教えに従って理解しようとしたのである。 

つづく 

Maria K. M.




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